EHNニュース 2008年10月
”社会的責任を求める医師たち”の論説記事紹介
カリフォルニアの新たな化学物質法
我々を守れない


情報源:Environmental Health News, October 2008
Op Ed: California's new chemical laws: They fail to protect us.
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/editorial
/op-ed-californias-green-chemistry-initiative-falls-far-short


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年10月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/ehn/ehn_Cal_new_chem_laws_PSR.html


 カリフォルニア州の有害化学物質への対応を基本的に変えることの必要性は明らかである。しかし最近、州知事アーノルド・シュワルツェネッガーによって署名された二つの新たな法律は、この目標を達成するために必要とする最も基本的な要素を含んでいない。真の改革を成し遂げるための方法は、有害性情報を公衆に提供し、その化学物質が安全であることを示す立証責任を化学物質製造者に移すことである。これらの法案はこれらのことを何もしていない。

キャシー・アタール及びマーサ・ダイナ・アルグエロ:
(社会的責任を求める医師たち(Physicians for Social Responsibility)、ロスアンゼルス)
対照論評記事:カリフォルニアの新たな化学物質:よいスタート、作業は必要
Op Ed: California's new chemical laws: Good start, need work


 毎月、我々は家庭で使用する製品中の有害化学物質についての記事を読む。おもちゃ、シャワーカーテン、化粧品、食品容器は全て最近の事例である。両親と家族は、消費者製品に添付されている長くて不完全なリストを解読する素人化学者になることを強いられている。製品中及びプロセス中の有害化学物質に対するカリフォルニア州の対応を基本的に変えることの必要性は明らかである。
 9月29日、カリフォルニア州知事アーノルド・シュワルツェネッガーは法案 AB 1879 に署名したが、それは州機関に対し、懸念ある化学物質を特定するためのプロセスを開発し、これらの懸念ある化学物質について何がなされるべきかを評価するための手順きを構築することを命じるものである(訳注1)。関連法案 SB 509は化学物質毒性についての情報のオンライン・データベースを作成することに関するものである。

 知事は、法案 AB 1879 と SB 509 を有害物質の使用により生じる問題の解決と、議会による化学物質ごとの禁止に対する代替であると宣伝している。彼は、これらの法案は設計段階で我々の製品から有害廃棄物を除去し、汚染と有害廃棄物を管理するということから、出発点で有害物質の使用を防ぐという解決に転じるものであると言う。

 しかし、これらの法案は、この目標を達成するために必要な最も基本的な要素を含んでいない。

 法案 AB 1879 と SB 509 は、産業が化学物質を市場に出す前にそれが安全であることを示すことを求めていない。それらは、公衆又は州に化学物質の危険性に関する情報又はデータを提供することすら、産業に求めていない。それらは、化学物質が有毒かどうかを調べるためのどのようなテストをも求めていない。この法案は、法による安全基準を確立していない。

 真の改革を達成するための方法は、有害性情報を公衆に提供し、その化学物質が安全であることを示す立証責任を化学物質製造者に移すことである。

 これらの法律は、この種のことを何もしない。

 むしろ、これらの法案がなすことは、大きな作業負荷を州に直接かけることである。それらは州が化学的有害性に直接対応するためにどのような措置をとる権限も与えていない。むしろ、州はまず、懸念ある化学物質を特定するための法規を開発しなくてはならない。その後に、州は懸念ある化学物質を拾い出す煩雑なプロセスを通じて作業を行い、それらをどうするのかを決めるための法規を開発しなくてはならない。州がどのような措置をとる前にも、15に分けられた要素を検討しなくてはならない。しかし、その分析が完了するまでは、産業に対しどのような情報の提出をも求める権限はない。たとえば、子どものおもちゃの鉛を除去させるために、州当局はこれらの全ての分析を行い、その後、製品の機能と能力、生活への有用性、原料とリソースの消費、節水、水質影響、大気放出、製造、使用、及び輸送に関わるエネルーギ、及び子どもへの脅威とは無関係なその他の5要素とについての事実認定を行わなくてはならない。

 このようなプロセスが、おもちゃでの鉛の使用をきっぱり禁止することより、公衆の健康保護のために本当によいことなのか?

 法案 AB1879 は、懸念ある化学物質を決定するための冗長で不確かなレビュー・プロセスを作りだしているが、それは長い間、何も措置がとられない結果をもたらすかもしれないプロセスでなので、人の健康と環境に害を引き起こすことが知られている化学物質を取り除くことを州に約束させておかなくてはならない。鉛や水銀のような悪い化学物質は、州による長々しいレビュー・プロセスを受ける必要はない。そうではなくて、それらは今すぐ、制限又は禁止されるべきである。

 カリフォルニアの人々は、最も普及した危険な化学物質を市場から除去し、有害性のない安全な代替物質の使用を促進し、全ての人々の健康を守るという化学物質政策の枠組みを享受する資格がある。

 問題ある化学物質の除去を速やかに行うことができる枠組みが適切に作られるまで、我々は、議会と知事が人の健康と環境を守るための措置を決め早急に実施することを求める。
 知事と議会はグリーン・ケミストリーの構成要素の全てを適切に構築する必要がある。彼らは化学物質が安全であることを確実にするためのテストを求める必要がある。彼らは、データは化学物質製造者によって当局と公衆に提供されなくてはならず、欧州連合によって採用された”ノーデータ・ノーマーケット”方針を採用しなくてはならないことを主張する必要がある。

 もし知事が、カリフォルニアのための緑の遺産のための”緑の信任状”を望むなら、彼はその仕事を完結させ、遅れを回避する方法で既存の法律を実施するよう州機関に命令するための追加的な法規を支援する必要がある。それができて初めて、我々は彼が設定した設計時に製品から有害物質を除去するという目標を達成することができる。


訳注1
C&EN 2008年9月8日 カリフォルニア州 化学物質法案採択 連邦政府の TSCA への行動の前兆となるか

訳注2:関連情報


化学物質問題市民研究会
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